「おかし(お菓子)」の語源は果物だった?甘味の歴史をたどる
「菓子」の語源は「果物」だったとされる
「菓子」の「菓」は「果」の異体字で、もともとは果物や木の実を指す漢字だったとされています。古代日本では甘いものといえば果物や木の実しかなかったため、「菓子=甘いもの=果物」という図式が成り立っていたと考えられており、現代の「菓子」という言葉が持つ意味の広がりからは想像しにくいものの、この語の出発点は現在の菓子売り場ではなく果樹園にあったといえそうです。
『古事記』にも登場する「菓」の用例
『古事記』に登場する「非時香菓(ときじくのかくのこのみ)」は、常世の国から持ち帰ったとされる不老不死の果実で、橘(たちばな)を指すという説が広く知られています。この「菓」の字がまさに果物を意味しており、上代の文献における「菓」の用法を伝える手がかりとして取り上げられることの多い例です。文字の成り立ちをたどると、甘いものの代名詞が果物であった時代の記憶が、この一文字の中に留められているように思えます。
唐菓子の伝来が意味を広げるきっかけになった
奈良時代に中国から米粉や小麦粉を油で揚げた「唐菓子(からくだもの)」が伝わると、加工された甘味も「菓子」と呼ばれるようになっていったとされています。ここから、果物以外の甘味を指す用法が徐々に広がっていったと考えられており、遣唐使や留学僧を通じてもたらされた大陸の食文化が、日本語における「菓子」という語の意味範囲を押し広げるきっかけになったとみられています。
砂糖が普及するまで甘味料の主役だった「甘葛」
平安時代まで、日本における主な甘味料はツタの樹液を煮詰めた「甘葛(あまづら)」だったとされています。『枕草子』にも「削り氷にあまづら入れて」という一節があり、当時の貴族が氷に甘葛をかけて食べていた様子がうかがえます。砂糖が本格的に普及するのは江戸時代中期以降のこととされ、それまでの長い期間、日本人の甘味体験は果物と甘葛によって支えられていたと考えられています。
「駄菓子」の「駄」は馬の荷物に由来する
「駄菓子」の「駄」は、馬一頭が運べる荷物の単位を表す語だったとされています。ここから「駄」は価値の低いものを指す接頭語としても使われるようになり、「駄菓子=安価な菓子」という意味が生まれたと考えられています。「駄目」の「駄」も同じ系譜の用法とされ、いずれも「たいしたことのないもの」というニュアンスを含んだ言葉として定着していったとみられます。
「和菓子」という呼び名は明治以降に生まれた
西洋から洋菓子が伝わったことをきっかけに、それと区別するために「和菓子」という言葉が生まれたとされています。つまり、洋菓子が入ってくるまでは菓子といえば和菓子しかなかったため、わざわざ「和」を付けて呼び分ける必要がなかったと考えられます。対になる語が現れて初めて自らを名指す言葉が必要になる、という言語の一般的な性質を示す例としても興味深いものです。
「おやつ」は江戸時代の時刻が語源とされる
「おやつ」は江戸時代の時刻の呼び方「八つ時(やつどき)」、現在でいう午後2〜3時ごろに食べる間食が語源だとされています。当時は一日二食が基本だったとされ、この時間帯に軽い食事を取る習慣が江戸の庶民の間に根付いていったと考えられています。時刻の呼び名がそのまま間食の呼び名として定着していった過程は、日本語における生活習慣と語彙の結びつきをよく示す例といえるでしょう。
「スイーツ」の定着は2000年代のグルメブーム以降
英語の “sweets” が日本で広く使われるようになったのは、2000年代のグルメブーム以降とされています。それ以前は「デザート」「ケーキ」など個別の名称が主流だったと考えられ、この時期に「スイーツ(笑)」というネット上の言い回しが生まれたことも、この語が一気に社会に広まった背景のひとつとみられています。カタカナ語が定着する過程には、メディアや流行語の影響が色濃く反映されることが多く、「スイーツ」もその典型例といえそうです。
日本最古とされる加工菓子「飴」
米を麦芽で糖化して作る「水飴」は、『日本書紀』にも記述が見られる日本最古の加工甘味料のひとつとされています。神武天皇が飴を作って神に供えたという記述が伝えられており、少なくとも1300年以上の歴史を持つ食品だと考えられています。果物に頼らない甘味を人の手で作り出す技術が、これほど古くから存在していたという点は、日本の食文化の奥行きを物語っています。
果物からスイーツへ、ひとつづきの歴史
デパートで果物が「フルーツ」ではなく「果物」と表記され、菓子売り場とは別の場所に置かれているのは今では当たり前の光景に見えますが、語源をたどればこの二つはもともと同じ「菓子」という言葉で括られていたとされています。歴史のどこかで枝分かれした双子のような存在だといえるかもしれません。果物から唐菓子、和菓子、洋菓子、そしてスイーツへ。「菓子」という一語の変遷をたどっていくと、その背後に日本の甘味文化がたどってきた壮大な歴史が浮かび上がってきます。