「コウモリ(蝙蝠)」の語源は?―夜空を飛ぶ哺乳類の名前の由来


コウモリとはどんな動物か

コウモリは翼手目に属する哺乳類で、翼を持ち飛行できる唯一の哺乳類だ。日本には約35種が生息し、洞窟・寺社の天井・橋の下などにぶら下がって昼間を過ごし、夕暮れ時から夜にかけて飛び回る。超音波を使ったエコーロケーション(反響定位)で障害物や獲物を感知する高度な能力を持つ。

見た目の独特さと夜行性のためか、日本でも西洋でも神秘的・不気味な生き物として語られてきたが、一方で縁起の良い動物としても扱われてきた。

「コウモリ」という名前の語源説

「コウモリ」の語源については複数の説がある。

「皮(かわ)包み(つつみ)」転訛説:翼膜が皮で包まれているように見えることから「かわつつみ」が転じたとする説。音の変化として「かわつつみ→こうもり」は飛躍があるものの、外見の特徴をとらえた説明として語られることが多い。

「河守(かわもり)」説:川の近くでよく見かける生き物であることから「川を守るもの」という意味の「河守(かわもり)」に由来するという説。ただし語源としての直接的な証拠は薄い。

「皮母里(かわもり)」説:母里(もり)は「群れる・集まる」を意味する古語とする解釈で、「皮を持って群れる動物」という意味合いから「かわもり→こうもり」に変化したとする説もある。

いずれも推測の域を出ず、現時点で語源は「未詳」とする辞典が多い。「コウモリ」は日本語固有の語で、古くから使われてきた和語の語源解明の難しさを示す一例だ。

漢字「蝙蝠」の由来

「蝙蝠」という漢字表記は中国語から来ている。中国語では「biānfú(ビエンフー)」と読む。「蝙(へん)」「蝠(ふく)」ともに「虫へん」を持つ字で、羽を持つ小型の生き物に使う文字だ。

注目されるのは「蝠(ふく)」の字の音読みが「ふく」であり、中国語でも「fú」と読むことだ。中国では「蝠」の音が「福(fú=幸福)」と同音であるため、コウモリは「福をもたらす生き物」として縁起の良い動物とされてきた。コウモリの文様は中国の陶磁器・刺繍・建築装飾に多用されており、特に5匹のコウモリを描いた「五福(ごふく)」の文様は非常に縁起が良いとされた。

日本でのコウモリの縁起

中国からの影響を受けて、日本でもコウモリは「幸守り(こうもり)」すなわち「幸を守るもの」として縁起が良いとされることがある。家紋や着物の文様にもコウモリが使われており、特に武家や公家の装飾品にコウモリの意匠が見られる。

京都・奈良の古寺の欄間や金具の装飾にもコウモリが彫られていることがあり、これは中国の吉祥文様の影響だ。家の中に住み着くコウモリを「家を守る福の神」として歓迎する地域もあった。

「蝙蝠のように日和見する」という慣用表現

コウモリは「どちら側にも属さない日和見主義」の象徴として慣用表現にも登場する。「コウモリのような人」「コウモリ外交」という言い方は、翼もあり体毛もあり、鳥にも獣にも属せるコウモリの特性から来ている。

イソップ寓話の「コウモリと鳥と獣」では、戦争中に鳥にも獣にも「私は仲間だ」と言い続けたコウモリが最終的に両方から拒絶されるという話がある。この話は西洋を通じて日本にも伝わり、「日和見・八方美人」のたとえとしてコウモリのイメージが定着した。

夜の生態と人間との関係

コウモリは夜に大量の昆虫を食べるため、農業害虫の天敵として有益な動物だ。一匹のアブラコウモリ(家コウモリ)が一晩に数百から千匹以上の昆虫を食べるとも言われている。

古くは寺や古民家の天井裏に大群が住み着き、「家コウモリ(イエコウモリ)」として人間の生活圏のそばで共存してきた。現代では都市化が進み生息環境が変化しているが、橋や建物の隙間でも適応しながら暮らしている。

縁起ものと嫌われものの間で

コウモリは西洋では吸血鬼・魔女・悪魔と結びつく「不気味な生き物」として描かれることが多く、ハロウィンのシンボルとしても知られる。一方で中国・日本では「福をもたらす縁起もの」として愛されてきた。

同じ動物が文化によってこれほど異なる意味を持つのは珍しいことで、人間がどの動物の何を見て意味を読み取るかという解釈の違いが如実に表れている。夕暮れの空をひらひらと飛ぶコウモリの姿に、福を見るか恐怖を見るかは、見る人の文化が決める。