「猿(さる)」の語源は?身近な野生動物の名前のなりたち


人に最も近い身近な野生動物

「猿(さる)」は、人間に姿や仕草の似た、身近な野生動物です。日本にはニホンザルが広く生息し、山林はもちろん、温泉に入る姿などでも親しまれてきました。人に近い存在であるだけに、古くから昔話・ことわざ・信仰など、さまざまな文化の中に登場してきた動物でもあります。

「さる」の由来には諸説ある

「さる」という呼び名の語源は、はっきりとは分かっていません。いくつかの説が唱えられていますが、いずれも決め手を欠き、定説とは言えない状況です。動物の古い名前は記録に残りにくく、由来をたどるのが難しいことが多いため、ここで紹介する説も推測の一つとして受け止めるのが適切です。

古い呼び名「ましら」

古くは、猿を「ましら」とも呼びました。和歌や古典文学には「ましら」の語が見え、「さる」と並んで使われていた時期があったとされます。「ましら」と「さる」がどのような関係にあるのかは明確ではありませんが、同じ動物に複数の呼び名があったことは、この動物が古くから人々の関心を集めていた証ともいえます。

「優る」「賢し」と結びつける説

語源説の一つに、知恵のある動物であることから「賢し(さかし)」「優る(まさる)」といった、すぐれた性質を表すことばと関連づける見方があります。人に似て賢い動物という印象が、呼び名に反映されたのではないかという推測です。ただし、これも音の近さからの連想にとどまり、確実な裏付けがあるわけではありません。

「去る」との語呂合わせと忌み言葉

「さる」は「去る」と同じ音であることから、縁起をかつぐ場面で意識されてきました。婚礼など「縁が去る」を嫌う場面でこの音を避ける一方、「魔が去る」「災いが去る」に通じるとして、逆に縁起の良いものとされることもありました。同じ語呂が、場面によって吉にも凶にも受け取られるのは、ことば遊びを好む日本文化らしい現象です。

干支の「申」との関係

十二支の九番目は「申(さる)」で、動物としての猿が当てられています。もともと「申」の字は猿とは別の意味を持つ文字でしたが、覚えやすくするために身近な動物が割り当てられたとされます。こうして「申年」は猿の年として親しまれ、年賀状や置物にも猿の姿が描かれるようになりました。

「三猿」と猿の信仰

日光東照宮の「見ざる・聞かざる・言わざる」の三猿は、よく知られた彫刻です。両手で目・耳・口をふさぐ三匹の猿は、「ざる(しない)」と「猿(ざる)」の語呂を重ねた、教えを込めた表現とされます。また各地の神社では、猿が神の使いとされたり、馬を守る動物と考えられたりと、猿は信仰の対象としても特別な位置を占めてきました。

呼び名の由来こそ確かにたどれないものの、「さる」は古名「ましら」とともに長く語り継がれ、干支や三猿、語呂合わせの縁起にまで深く関わってきました。人に最も近い野生動物として、その名は意味の謎を残したまま、日本人の暮らしと文化の中に根を下ろしています。