「おにぎり」と「おむすび」の語源は?「握る」と「結ぶ」に込められた意味
「おにぎり」の語源は「握る」という動作
「おにぎり」は、動詞「握る」の連用形「にぎり」に、丁寧・美化の接頭語「お」を付けた言葉とされています。文字どおり「お握り」であり、米飯を手で握り固めるという動作そのものが、そのまま料理名になったわかりやすい語源だといえます。古くは「握り飯(にぎりめし)」「握り飧(にぎりいい)」といった呼び方も使われていたとされ、「おにぎり」はそこから丁寧語化して定着した呼称と考えられています。現代では「おにぎり」という呼び方がもっとも一般的ですが、握るという動作を直接示す言葉である点は、古い呼び名から変わっていません。
「おむすび」の語源は「結ぶ」
「おむすび」は「結ぶ」が語源とされ、米を手で結び固めることに由来すると考えられています。「結ぶ」には「人と人をつなぐ」「縁を結ぶ」という意味もあり、「おむすび」のほうが「おにぎり」よりも上品で縁起の良い響きを持つといわれます。さらに、「結ぶ」は古語の「産霊(むすひ)」に通じるという説もあります。「産霊」は生命や物事を生み出す力を意味する語で、神話に登場する神々の名にも見られる言葉です。三角形に結んだ米に山や大地の霊力を込め、それを食べることで力を分けてもらうという信仰が背景にあるとする説もあり、「おむすび」という呼び名には調理法以上の意味が込められていた可能性があります。
「おにぎり」と「おむすび」は地域差がある
一般的に、関東では「おむすび」、関西では「おにぎり」が多いとされますが、実際には家庭や世代によっても呼び方が混在しており、明確な境界線を引くのは難しいといわれます。NHK放送文化研究所の調査によると、全国的には「おにぎり」と呼ぶ人のほうが優勢だと報告されています。一方、コンビニエンスストアやスーパーの商品名としては「おにぎり」という表記がほぼ統一的に使われており、こうした商業的な呼び方の広まりが、日常語としての「おにぎり」優勢にも影響しているのではないかとも考えられています。地方によっては「にぎりめし」という古い呼び方がそのまま方言として残っている地域もあるといわれます。
最古のおにぎりは弥生時代
石川県の杉谷チャノバタケ遺跡からは、弥生時代中期(約2000年前とされる)のものとみられる、炭化した米の塊が発見されています。これが日本最古のおにぎりの痕跡ではないかとされ、「おにぎりの化石」と呼ばれることもあります。時代が下った平安時代には、貴族が使用人や労働者に振る舞う食事として「屯食(とんじき)」と呼ばれる、蒸した米を握り固めた食べ物があったと伝えられています。屯食は今日のおにぎりの原型のひとつとも考えられており、身分の高い人が働く人々に食料を分け与える場面で用いられていたとされます。携帯や配布のしやすさという、おにぎりが長く重宝されてきた理由は、この時代からすでに備わっていたといえそうです。
戦国時代のおにぎりは「兵糧」
戦国時代、おにぎりは携帯食料「兵糧(ひょうろう)」として重宝されたとされています。片手で食べられ、傷みにくく、米という主食からエネルギーを効率よく摂れる携帯食は、長期の行軍や合戦に欠かせない存在だったと考えられます。梅干しや塩を混ぜ込んで保存性を高めたり、竹の皮に包んで持ち運んだりする工夫も広く行われていたといわれます。腰に結びつけて携行したことから「腰兵糧(こしびょうろう)」と呼ばれる携行食もあったとされ、握り飯は日本の戦の歴史と切り離せない存在として語り継がれています。
三角形のおにぎりが主流になったのはコンビニのおかげ
おにぎりの形は地域や家庭によって三角・俵型・丸型とさまざまで、東日本では三角形、西日本では俵型が好まれる傾向があるともいわれます。三角形が好まれてきた理由については、山や神への信仰と結びつけて説明されることもあれば、単に握りやすく持ちやすい形だったからだとする見方もあり、諸説あってはっきりしません。しかし、現在のように三角形が圧倒的に主流になったのは、1978年にセブン-イレブンがおにぎりの販売を始めて以降とされています。三角形はパッケージに収めやすく、陳列や生産の効率にも優れていたため、コンビニエンスストアの普及とともに全国的な「おにぎりの標準形」として広まっていったと考えられています。
コンビニおにぎりの「パリパリ海苔」は発明品
海苔がご飯の水分でしけらないよう、フィルムで海苔とご飯を分離しておく包装は、1970年代後半に開発されたとされています。食べる直前にフィルムを引き抜くことで、巻きたてのようなパリパリの海苔を楽しめるこの仕組みは、日本の食品包装技術の傑作のひとつともいわれ、海外のコンビニ研究者や食品業界関係者からも注目されてきました。この技術が登場する以前は、あらかじめ海苔を巻いた状態で販売されることが多く、時間が経つと海苔が湿ってしまうという課題があったとされます。ちょっとした発明が、コンビニおにぎりの品質と人気を大きく底上げしたといえそうです。
「爆弾おにぎり」は大きさの比喩
特大サイズのおにぎりを「爆弾おにぎり」と呼ぶのは、その見た目の迫力を爆弾に例えた俗称とされています。新潟県の一部地域など、直径が15センチを超えるような巨大なおにぎりが名物として親しまれている土地もあるといわれます。こうした大ぶりなおにぎりは、部活動や力仕事に励む人向けの弁当として親しまれてきた歴史もあり、「がっつり食べられる」という実用性が「爆弾」という愛称につながったとも考えられます。学校の部活帰りに大きなおにぎりを頬張るという光景は、今も各地で見られる日常の一コマです。
海外での “ONIGIRI” ブーム
アニメやコンビニ文化の海外進出の影響もあり、近年では海外でも “onigiri” という言葉がそのまま通じるようになりつつあるといわれます。パリやニューヨークなど世界各地の都市でおにぎり専門店が増えており、「日本のファストフード」として紹介されることも増えています。寿司に比べて生魚を使わず、具材や味付けの自由度が高いことから、ベジタリアンやヴィーガン向けの食事としても受け入れられやすいという指摘もあります。手のひらサイズで気軽に食べられる携帯食という性質は、時代や国境を越えて評価されている点といえそうです。
「おにぎらず」は握らないおにぎり
2014年ごろにブームになったとされる「おにぎらず」は、海苔の上にご飯と具を乗せて包むだけの料理です。「握る」という動作から生まれた「おにぎり」に対して、あえて「握らない」ことを名乗る逆転の発想が話題を呼んだといわれています。断面にさまざまな具材の層が見える見た目のよさや、握る力加減がいらない手軽さから、お弁当作りの新定番として広まりました。
「握る」と「結ぶ」。たった一文字の違いに、おにぎりが持つ二つの側面が表れているといえるでしょう。片手で食べられる携帯食としての実用性と、「結ぶ」という言葉が示す人と人、あるいは人と自然をつなぐ縁起物としての側面です。弥生時代の炭化米から戦国の兵糧、コンビニの三角形、そして「おにぎらず」に至るまで、形や呼び名を変えながらも、おにぎりは長く日本の食卓の中心にあり続けてきました。握るか、結ぶか。その小さな違いの中に、おにぎりという料理が背負ってきた歴史の厚みが詰まっています。