「もも」の語源は?「百(もも)」と同根説から見る太ももの名前の成り立ち
1. 「もも(腿)」の語源――「百(もも)」同根説
「もも(腿)」の語源として最も広く知られるのが、「もも(百)」と同根であるとする説です。「百(もも)」は数が非常に多いことを表す語で、「肉の量が多い・肉付きが豊かな部位」という意味から、脚の中で最も筋肉量が多く肉が厚い太ももの部分を「もも」と呼ぶようになったと考えられています。古代日本語では「百」を「もも」と読み、「百(もも)」は具体的な数値100というよりも「非常にたくさん・豊富」という量の多さを示す語として使われていました。人体の脚部の中でも大腿(だいたい)部は体の筋肉の中でも特に大きく分厚い部位であり、その豊富な肉付きに注目した命名とする解釈は自然なものです。
2. 「百(もも)」が表す「量の多さ」という概念
古代日本語において「もも」という音は「百」の訓読みであり、「百歩・百代」のような具体的な数のほかに「非常にたくさん」という漠然とした多量を意味する語として機能していました。「桃(もも)」の語源にも「もも(百)」との関係を指摘する説があり、実が鈴なりに豊かに実ることから命名されたとする解釈があります。身体の部位の「もも(腿)」が「百(もも)」と同根とする説も、この「量が豊富・肉が多い」という意味に着目したものです。ただし語源については確定的な文献的証拠が残るわけではなく、日本語の語源研究において有力な説として扱われている段階であることを踏まえておく必要があります。
3. 「もも(腿)」の漢字表記――「腿」の成り立ち
「腿(もも)」という漢字は「肉月(にくづき)」に「退(たい)」を組み合わせた字で、「肉+退」の構成です。「退」は後ろに引く・引き下がるという意味を持ち、「腿」は「後ろ(下)に向かって伸びる肉の部分」すなわち脚・足の肉を表すとされます。日本語では「太もも」「もも肉」などの表現で使われ、漢字「腿」は「大腿(だいたい)」「下腿(かたい)」などの医学用語にも用いられます。「大腿(だいたい)」が膝より上の太もも全体を指し、「下腿(かたい)」が膝から足首までのすね・ふくらはぎを指すのに対し、日常語の「もも」は主に大腿部を意味します。
4. 「ふともも(太腿)」――「太い」が付く理由
現代語では「ふともも(太もも)」という呼び方が一般的ですが、この「ふと(太)」は後から付け加えられた修飾語です。「もも」だけで大腿部を指すことは古くからありましたが、膝下の「こむら(ふくらはぎ)」や「すね(脛)」などと区別するために「ふと(太い・太く大きな)」を冠するようになったと考えられます。「太もも」という呼び方は、その部位が体の中でも特に太く大きな脚の部分であることを強調しており、「もも」の語源説である「肉が多い・量が豊富」という意味とも方向性が一致しています。
5. 「もも(腿)」と「また(股)」の違い
「もも(腿)」と「また(股)」はしばしば混同されますが、指す部位が異なります。「もも(腿)」は大腿部、すなわち股関節から膝にかけての脚の前面・側面の肉付きのある部分を指します。一方「また(股)」は両脚の付け根が分かれる部分、つまり脚の間の股間(こかん)部分を指します。「股(また)」は「二またに分かれる(また)」という意味から来ており、「また(又・股)」は物が二つに分かれる分岐点を表す語です。「もも(腿)=脚の肉の豊かな部分」「また(股)=脚が二股に分かれる根元」という区別が本来の用法です。
6. 「また(股)」の語源
「また(股)」は「また(又)」と同源で、「二つに分かれる」「分岐する」という意味を持つ語です。漢字「又(また)」は右手を象形した字で、物が左右に分かれる様子を表し、接続詞「また(又・亦)」とも語源的につながります。「股(また)」は脚だけでなく、木の枝が二股に分かれる部分や、ズボン・袴(はかま)の股下部分にも使われます。「股関節(こかんせつ)」「股間(こかん)」「一股二股(ひとまたふたまた)」などの語はすべてこの「分かれる・二股」の意味に基づいています。「もも(腿)」が肉付きの豊かさに注目した命名であるのに対し、「また(股)」は形状・構造上の特徴(二股に分岐する)に注目した命名です。
7. 「もも肉」という料理用語
「もも肉(もも肉)」は鶏・豚・牛などの脚の付け根から大腿部にかけての肉を指す料理用語で、「もも(腿)」がそのまま食材名として使われています。鶏のもも肉は胸肉に比べて脂肪分が多く、「もも(腿)」の語源が示す「肉が多い・量が豊富」という特徴が料理の文脈でもそのまま生きています。「もも焼き」「もも煮」のような料理名にも広く使われており、「もも」という語が人体の部位名と食肉の部位名を兼ねていることは、日本語の語彙の広がりを示しています。
8. 「内もも・外もも」という解剖的区分
スポーツや解剖学の分野では「内もも(内転筋群)」と「外もも(大腿四頭筋・ハムストリングスなど)」という区別が使われます。内ももは両脚の内側の筋肉群(内転筋:大内転筋・長内転筋など)、外ももは大腿前面(大腿四頭筋)や大腿後面(ハムストリングス)などを指します。「もも」という一語が大腿部全体を包括するため、方向を示す「内・外・前・後」などを冠して区分する用法が定着しました。このような「もも+方向語」の組み合わせによる部位の細分化は、「もも」という語の意味範囲の広さを反映しています。
9. 「もも(百)」を含む古語・古典の用例
万葉集をはじめとする古典文学において「百(もも)」は「百重(ももえ)」「百草(ももくさ)」「百敷(ももしき)」などのように、多数・豊富・盛んなさまを表す接頭語的に使われています。「もも」という音が持つ「豊か・多い・盛ん」というイメージは古代から一貫しており、この語感が「肉が豊かな脚の部位」を指す「もも(腿)」の命名に影響したとする説の背景にあります。ただし「もも(腿)」の語源を直接証明する上代文献上の記述は確認されておらず、語源説の位置づけは推論の域を出ない点は留意が必要です。
10. 身体部位の語源と「量・形・機能」への注目
日本語の身体部位の語源を見ると、「量・形・機能」のいずれかに着目した命名が多く見られます。「あばら(肋骨)」は骨の間のすき間という「粗い形」、「ひざ(膝)」は「火座(ひざ)」や「引く座(ひきざ)」などの説があり機能・動作に注目した説が複数あります。「もも(腿)」の「百(もも)=量が多い」説は「量」への注目であり、「太(ふと)もも」という修飾語も「太くて大きい」という「形・量」への着目です。「また(股)」が「分岐する形」への注目であることと対比すると、同じ脚の部位でも命名の視点が「量の豊かさ(もも)」と「形状の特徴(また)」で分かれていることは、古代の人々の身体観察の多様性を示しているといえます。
「肉が多い・量が豊富」という意味を持つ「百(もも)」と同根であるとする説は、確定的な証拠があるわけではないものの、「もも(腿)」という語が示す大腿部の豊かな肉付きと、古代日本語における「もも(百)」の「豊富・多量」という語感が自然に一致することから、有力な語源説として受け入れられています。「また(股)」が「二股に分かれる構造」に着目した命名であるのと対照的に、「もも(腿)」は肉の豊かさという量的な特徴に注目した命名であり、同じ脚の部位でも異なる命名の視点が共存していることに、日本語の語彙形成の豊かさが見えます。