「鰯(いわし)」の語源は"弱し"?日本人に愛された小魚の名前の由来


「弱し」が転じたという有力な語源説

「いわし」の語源として最も広く知られているのが、「弱し(よわし)」が転じたという説です。鰯は水揚げされた瞬間から鮮度が急速に落ちる、非常に傷みやすい魚として知られています。そのか弱さのために「よわし」と呼ばれ、やがて発音が変化して「いわし」になったとされています。

日本で生まれた国字「鰯」

「鰯」という漢字は中国から伝わったものではなく、日本で独自に作られた国字(和製漢字)です。魚偏に「弱」を組み合わせたこの字は、「弱し」という語源説をそのまま字形に写し取ったものといえます。「鱈(たら)」や「鱚(きす)」など、魚を表す国字は他にもいくつか存在しますが、「鰯」はその代表格の一つです。

マイワシ・カタクチイワシ・ウルメイワシの三種

日本で「いわし」と呼ばれる魚は、主に三種類に分かれます。体側に並ぶ黒い斑点が特徴のマイワシ、口が片側に偏っているように見え煮干しの原料にもなるカタクチイワシ、そして大きく潤んだ目を持つことから「潤目鰯」と呼ばれるウルメイワシです。いずれも日本の食卓に古くから欠かせない魚として親しまれてきました。

節分の魔除け「柊鰯」

節分の風習として、焼いた鰯の頭を柊の枝に刺して玄関先に飾る「柊鰯」があります。鰯を焼くときの臭いと煙が鬼を遠ざけ、柊の葉のとげが鬼の目を刺すとされる魔除けの習わしで、平安時代の頃からすでに存在していたと考えられています。

だしの要、煮干しとカタクチイワシ

和食のだし取りに使われる煮干し(西日本では「いりこ」とも呼ばれます)は、主にカタクチイワシを塩水で煮てから乾燥させたものです。「いりこ」の「いり」は「炒る・煎る」を意味し、乾燥させる工程に由来しています。煮干しと昆布を合わせた出汁は、和食の基本といえる組み合わせです。

串の刺し方が名前になった「目刺し」

鰯の干物の一種「目刺し」は、目の部分に串を刺して干す独特の調理・保存法からその名がつきました。複数の鰯を目に串で通して並べて干す様子が特徴的で、昔ながらの庶民の食卓を象徴する食べ物として、文学作品や俳句にもたびたび登場してきました。

「鰯の頭も信心から」ということわざ

「鰯の頭も信心から」とは、鰯の頭のようなつまらないものでも、信じる人にとっては御利益があるように思えるという意味のことわざです。節分の柊鰯の風習とも重なり合いながら、信仰心や思い込みの持つ力を語るために古くから使われてきました。

稚魚から生まれるちりめんじゃこ

ちりめんじゃこは、カタクチイワシやマイワシの稚魚(シラス)を塩茹でして乾燥させたものです。乾燥の度合いによって、水分の多い釜揚げシラス、半乾燥のしらす干し、しっかり乾燥させたちりめんじゃこに区別されます。カルシウムが豊富で、日本の食卓に欠かせない食材の一つです。

江戸時代に肥料としても重宝された鰯

鰯は食用としてだけでなく、江戸時代には「干鰯(ほしか)」という農業用肥料としても広く利用されました。窒素やリン酸を多く含む優れた肥料として、綿花や菜種の栽培に欠かせない存在となり、干鰯の流通は江戸時代の商品経済の発展にも大きく寄与しています。傷みやすい性質のためについた「弱し」という名前が、食用からだし、肥料に至るまで日本人の生活を長く支えてきたことを思うと、この魚の存在感の大きさが改めて感じられます。